あらすじ(ネタバレあり)
第9話では、ガンダムファイト3連覇の英雄と謳われたネオイングランド代表ファイター、ジェントル・チャップマンとの対決が描かれます。ドモン・カッシュは彼との戦いを求めロンドンに赴きますが、その前にネオフランス代表ジョルジュ・ド・サンドから驚くべき情報を耳にします。それは、かつて正々堂々とした戦いぶりで名高かったチャップマンが「罠」を仕掛けて戦ってくるという噂でしたdengekionline.com。半信半疑のドモンでしたが、真相を確かめるためチャップマンにガンダムファイトを挑みます。
招待を受けたドモンとレインはチャップマン邸でのティーパーティーに参加します。上品な紅茶でもてなすチャップマン夫妻に対し、ドモンは「呑気に茶なんか飲んでられるかッ!」と苛立ちを隠せません。彼は英雄との戦いに血気にはやり、茶会の優雅さを楽しむ余裕もなく早く決闘に臨みたい様子です。この静と動の対比が、序盤の見どころの一つでしょう。
やがてガンダムファイトが開始されます。チャップマンの搭乗するジョンブルガンダムはロンドン市街を舞台に、夜霧の中で姿を潜めつつ戦闘を展開します。序盤、ジョンブルガンダムはスモーク弾を用いて濃霧を発生させ、視界を奪われたドモンのシャイニングガンダムを巧みに翻弄します。さらには複数の無人モビルスーツ「カッシング」を霧に紛れさせ、四方八方から奇襲攻撃を仕掛けてくる卑劣な戦法でドモンを消耗させましたgundam.wiki.cre.jpja.wikipedia.org。まさに噂どおりの“罠”を駆使する戦いぶりに、ドモンは驚愕しつつも苦戦を強いられます。
ジョンブルガンダムは遠距離からの正確無比な狙撃でシャイニングガンダムを追い詰め、ついにドモンを窮地に追い込みましたgundam.wiki.cre.jp。しかしあと一歩というところで、長時間の戦闘によってチャップマンの身体に異変が起きます。彼は実は重い病に侵されており、戦いの最中に発作的な呼吸困難や目眩に襲われる状態だったのですja.wikipedia.org。この時も精神強化剤(いわゆるドーピング)で無理に持たせていた肉体が限界を迎え、薬効切れとともに視界がぶれ意識が朦朧となってしまいましたja.wikipedia.org。戦いを続行できなくなったチャップマンは、自らドモンに「撃て!」と自分への止めを促しますtanpoko.blog.shinobi.jp。相手の異変に戸惑い攻撃を躊躇するドモンでしたが、最終的に渾身の《シャイニングフィンガー》を発動。ジョンブルガンダムの頭部を粉砕し、チャップマンは力尽きて敗北しましたgundam.wiki.cre.jp。
戦闘後、チャップマンは妻マノンに看取られながら静かに息を引き取ります。彼はマノンに対し「火星への移住という二人の約束を果たせそうにない」と謝り、長年自分に無理を付き合わせてきたことへの感謝を伝えて、その生涯を閉じましたdic.pixiv.net。マノンは涙ながらに夫の最期を見届けると、ドモンとレインに「今日の私達の姿は、いずれあなた達の未来の姿になるかもしれない」と警告を残しますja.wikipedia.org。戦いに身を投じる者の末路を目の当たりにしたドモンとレインは、その言葉に深く胸を突かれるのでした。
登場キャラクター(チャップマンの過去と現在)
ジェントル・チャップマン – 本エピソードの中心人物。ネオイングランド代表の歴戦のガンダムファイターであり、第9・10・11回ガンダムファイト大会を3連覇した唯一無二の英雄ですdic.pixiv.netdic.pixiv.net。若い頃は射撃型モビルファイター「ブリテンガンダム」を駆り、卓越したライフル狙撃術で無敗の王者として君臨しました。その偉業はガンダムファイト史に残るものであり、一時は各国が射撃武器重視の機体開発に走るほどの影響を与えたほどですgundam-c.comsrw.wiki.cre.jp。しかし彼の3連覇による軍拡競争の反動で世界情勢が不安定化し、第12回大会は開催が4年延期となりましたgundam-c.com。そして延期後の第12回大会では東方不敗マスター・アジアが優勝をさらい、大会は再び格闘技重視の風潮へと戻っていきますgundam-c.com。チャップマン本人については、第12回大会には出場しなかったとの設定もありsrw.wiki.cre.jp、公式に明言はされていないものの監督コメント等から「不参加」だった可能性が高いと考えられています(※後述の解説参照)。
第13回大会(本編時点)で、チャップマンは国民的英雄として周囲の期待に応えるべくファイター復帰を決意しますsrw.wiki.cre.jp。しかし彼の肉体は既に病魔に蝕まれており、とても全盛期のコンディションでは戦えない状態でしたgundam.wiki.cre.jp。プライドの高いチャップマンは「民衆は無敵の英雄を求めるのだ。私は常に英雄でなければならないのだよ」と自らを奮い立たせ、精神強化剤(未来世紀の興奮剤)に頼ってでも戦い抜こうと決心しますdic.pixiv.net。作中でも彼は試合中に何度も薬を服用しており、その副作用に苦しみながらも闘志だけで立ち続ける姿が描かれました。長年戦士として生きてきたがゆえ、たとえ身体がボロボロでも戦いをやめられない――まさに**「強くなればなるほど、その修羅の道から抜けられなくなる」**という業を背負った人物と言えます。
一方、本来のジェントル・チャップマンは理知的で気高い人柄の持ち主でした。誇り高き王者としての風格を常に漂わせ、どんな時でも正々堂々と戦う姿は、多くのファイターの憧れの的だったのですdic.pixiv.net。ネオフランス代表ジョルジュもチャップマンを目標として敬愛しておりgundam.wiki.cre.jp、それだけに今回目にした彼の変貌には強いショックを受けていました。物語序盤、ジョルジュが「今のチャップマンは獲物を追い詰める血に飢えた野獣だ…」と語る場面がありましたが、これは英雄だった頃とのギャップを象徴する台詞でしょう。かつて尊敬を集めた名ファイターが、病と重圧によってプライドを捨て不正に手を染めてしまった姿は見る者にも衝撃を与えます。**「闘いとは非情なものだ。勝つ者がいれば必ず負ける者もいる」**というチャップマン自身の言葉gundam.infoのとおり、どんな英雄であろうと勝負の世界では勝ち続けねば過去の栄光が色褪せてしまう。その恐ろしさと悲哀を、彼の姿は体現していたと言えるでしょうgundam.info。
ドモン・カッシュ – ネオジャパン代表の本作主人公。第9話時点では各国の強豪とのファイトを通じて成長中ですが、英雄チャップマンに対しては尊敬と畏敬の念も抱いていました。彼が紅茶の席に落ち着けなかったのも、憧れの大物を前に緊張していた面があるのかもしれません。実際、戦闘中にチャップマンの体調異変を察した際、ドモンは彼を気遣って攻撃をためらっていますtanpoko.blog.shinobi.jp。第7話でチボデーとのファイト時には容赦なく非情さを見せたドモンが、この第9話では相手を案じて一瞬動きを止めてしまったのは興味深い対比です。それだけチャップマンという人物に対して、ドモンが特別な敬意を持っていたことの表れでしょう。しかし結果的にチャップマン本人から叱咤される形で止めを刺すことになり、ドモンにとっても苦い勝利となりました。
マノン・チャップマン – チャップマンの妻であり、彼を陰ひなたで支え続けた女性。夫と同じく40歳前後ですが落ち着いた美しい淑女で、第9話では自宅にドモン達を招き茶会を開くなど優雅な一面を見せます。しかし内心では、衰えた夫が無理をして戦い続けることを誰よりも案じていました。マノンは独自に**無人MS「カッシング」**を遠隔操作し、試合中ひそかに夫を援護していたのですja.wikipedia.org。人工霧の中から複数のカッシングで奇襲するという卑劣な手段はファイト規約違反ですが、愛する夫をどうにか勝たせたい一心で裏方に徹していたのでしたja.wikipedia.org。チャップマン自身この裏工作に気付いていながら黙認しており、夫妻の間にある切ない絆が感じられます。ファイト後半、薬切れで燃え尽きた夫を抱きかかえ、マノンは彼に寄り添い看取ります。彼女がドモン達に語った忠告(自分達のようになるなという警告)は、将来のドモンとレインの姿と重ね合わせた重い言葉でした。なお、チャップマンが決勝大会でデビルガンダムによって蘇生・豹変した際、マノンは物語に登場しません。これは監督の今川泰宏氏によれば「チャップマンの変貌理由をあえて明確に描かないため」だったとのことで、彼女を出すとその経緯を語らせざるを得ないので登場させなかったと語られていますja.wikipedia.org。夫の復活を知ったマノンがどうなったかは劇中で語られませんが、公式には不明のままです(裏設定等も特に無いようです)。
ジョルジュ・ド・サンド – ネオフランス代表のガンダムファイター。第5話でドモンと戦った貴公子キャラで、本エピソードでは冒頭にてチャップマンと試合をしています。結果はチャップマンの体調不良もあり引き分け・有耶無耶になったようですがdic.pixiv.net、その戦いでチャップマンの不審な戦法(霧と複数MSによる闇討ち)を目撃しました。ジョルジュはファイター仲間としてチャップマンを尊敬していたため、汚い手を使っているらしい事実に戸惑いを隠せません。彼はドモンに「チャップマンは以前とは別人のようだ」と警告し、自身の負傷もあってドモンに後を託します。物語後半、決勝大会でジョルジュは再びチャップマン(グランドガンダム)と対峙する運命にありますが、その際は本話の経験が活きて彼なりの決意で臨むことになります(※この再戦については後述)。
レイン・ミカムラ – ドモンのパートナーでネオジャパン代表チームのメカニック担当。第9話でもドモンに同行し、チャップマン戦ではサポート役として奔走します。レインはチャップマン夫妻の様子から何か異変を感じ取り、戦闘中にもチャップマンの様子を細かく観察していました。霧の中で不自然な攻撃があった際にはいち早くカッシングの存在に気づき、隠れて遠隔操作するマノンの姿を目撃していますdic.pixiv.net。頭脳明晰な彼女らしく冷静に状況を分析し、ドモンに助言を与えるなど貢献しました。戦闘後、マノンの言葉を聞いたレインはドモンと共に将来を案じる表情を浮かべます。ファイターを支える者として、マノンに自分を重ね合わせたのかもしれません。
登場モビルファイター(ジョンブルガンダムとグランドガンダムの違い)
- ジョンブルガンダム(Neo-England GF13-003NEL) – 第13回ガンダムファイト用にネオイングランドが開発した射撃型モビルファイターですgundam.wiki.cre.jp。デザインモチーフは英国の近衛兵(グレナディアガーズ)の軍服で、赤い上衣に黒いボディ、頭部には衛兵の黒い帽子を思わせる独特の形状を持ちます。その名“ジョンブル”も英国の象徴的人物から取られています。主武装はロングビームライフルで、チャップマンの驚異的な狙撃技術に合わせて長距離射撃に特化した設計となっていますgundam.wiki.cre.jp。頭部バルカン砲や両肩部マシンキャノンなど近接支援火器も装備しますが、何と言っても最大の武器はチャップマンの腕による正確無比のスナイピングですgundam.wiki.cre.jpgundam.wiki.cre.jp。劇中でも遠距離からの一射でドモンのシャイニングガンダムを何度も追い詰めています。また見た目は細身ながら実は格闘戦にも対応可能な設計で、銃剣術やボクシングといった近接戦闘も得意としていましたdic.pixiv.netdic.pixiv.net。実際、全盛期のチャップマンは銃身(ストック)を使った打撃やボクシングスタイルのパンチで相手を圧倒したというエピソードもあり、生粋のオールラウンダーだったようですdic.pixiv.netsrw.wiki.cre.jp。もっとも第13回大会時点ではチャップマンの衰えもあり、本領を発揮できず射撃主体の戦法に徹していましたgundam.wiki.cre.jp。劇中では煙幕発生装置を用いて人工霧を展開し、暗視センサーを搭載した頭部バイザーで敵の位置を捕捉するというハイテク機能も披露していますgundam.wiki.cre.jpgundam.wiki.cre.jp(このバイザーは病身のチャップマンを補佐する電子デバイスでもありましたgundam.wiki.cre.jp)。なお、英語圏での放送では「ロイヤルガンダム(Royal Gundam)」と改名されましたgundam.wiki.cre.jp。
- グランドガンダム(獅王争覇〈ししおうそうは〉グランドガンダム) – デビルガンダム四天王の一機に数えられる陸戦重砲撃型モビルファイターですg-gundam.netja.wikipedia.org。もともとはチャップマンのジョンブルガンダムがデビルガンダム細胞によって異形進化した姿であり、その巨体と圧倒的パワーを誇るフォルムは通常のMFとは一線を画していますg-gundam.netsrw.wiki.cre.jp。カラーリングは濃い焦茶色を基調とし、頭部には突き出た一本角、全身に重厚な装甲と巨大な四肢を持つ姿はまるで怪物じみた**“四足獣”のようですsrw.wiki.cre.jp。グランドガンダムは二足歩行のスタンディングモード**(人型形態)と四脚のアタックモードに変形可能でg-gundam.netsrw.wiki.cre.jp、用途に応じて姿勢を変えて戦います。スタンディングモードでは分厚い重装甲と内蔵武装を活かし要塞のように構えて砲撃戦を展開し、アタックモードでは四本脚で地を這いながらその巨体を叩きつける体当たり攻撃など機動力を活かした戦法を取りますsrw.wiki.cre.jp。劇中でグランドガンダムはジョンブルガンダムに偽装して登場し、決勝大会のジョルジュ戦で煙幕の中から突然この巨大な姿を晒してみせましたgundam.wiki.cre.jp。要塞級の重量級MSが霧の中から出現する演出は圧巻で、ジョルジュのみならず視聴者にも大きなどよめきをもたらした名シーンです(詳細は「技・演出」の章で後述)。グランドガンダムの戦闘力は凄まじく、その巨体と防御力で並みいるガンダムファイター達を苦しめました。弱点は巨体ゆえの鈍重さですが、チャップマンの生前の戦闘データが反映されているのか射撃武器の精度も高く、全身を武器にした近接戦もいとわないまさに究極のパワーファイターですdic.pixiv.netdic.pixiv.net。劇中終盤のランタオ島決戦では、このグランドガンダムを相手にジョルジュとチボデーがコンビを組んで挑み、死闘の末に辛くも撃破することに成功しましたgundam-c.comdic.pixiv.net(詳細は「解説・考察」の章で後述)。余談ですが、四天王としてのグランドガンダムには「獅王争覇(ししおうそうは)」という肩書きがついています。これは中国の四神や四聖獣を意識したネーミングで、劇中のマスター・アジアの発言によればデビルガンダム四天王の称号とのことですsrw.wiki.cre.jp。
技・演出
第9話の戦闘シーンは、他のガンダムファイト回とは一味違うスリラー演出が光ります。特にチャップマンの戦法である**「濃霧の狩り」**は印象的でした。以下に本エピソードで登場した主な技・戦術と演出面の特徴をまとめます。
- 霧とカッシングによる撹乱戦法: チャップマンが用いた卑劣な戦術です。ジョンブルガンダムには煙幕発生装置が仕込まれており、戦闘の序盤にそれを使って試合会場一帯を濃い霧で覆いましたgundam.wiki.cre.jp。視界を遮られたドモンは標的を見失い苦戦します。さらに霧の中には妻マノンが遠隔操作する無人MS「カッシング」部隊が潜んでおり、四方八方からシャイニングガンダムを奇襲しましたgundam.wiki.cre.jp。この闇討ち攻撃によってドモンは着実にダメージを負わされ、チャップマンは安全圏から悠々と獲物を狙撃するという一方的な展開を作り出します。1対1が原則のガンダムファイト国際条約に明確に違反する手段ですが、チャップマンはあえてそれを黙認し勝利を優先しましたgundam.wiki.cre.jp。霧に浮かび上がる無人機のシルエットや、次々と襲い来る不気味な敵影はまさに亡霊のごとく、視聴者にも恐怖感を与える演出でした。
- ロングビームライフル狙撃: ジョンブルガンダムの主兵装である長銃身ビームライフルによる狙撃攻撃ですgundam.wiki.cre.jpgundam.wiki.cre.jp。チャップマンは「正確無比の射撃の名手」と謳われる通り、その腕前は桁外れでしたgundam.wiki.cre.jp。霧の中でも音や気配で敵の位置を察知し、一撃で急所を射抜いてみせる離れ業を披露します。ドモンのシャイニングガンダムも何度か致命的な狙撃を受け、あと一歩で行動不能にされるところでしたgundam.wiki.cre.jp。劇中ではビルの屋上に陣取ったジョンブルガンダムが、静かに獲物を狙い澄ますスナイパーさながらの構図で描かれます。月明かりに浮かぶシルエットと赤いスコープアイが印象的で、まるで戦場の狙撃映画のワンシーンを見るかのような緊張感でした。長距離射撃主体のガンダムファイト描写はシリーズでも珍しく、新鮮な魅せ場となっています。
- シャイニングガンダムの反撃(シャイニングフィンガー): 窮地に追い込まれたドモンが放った逆転の必殺技です。シャイニングガンダムの右手が黄金に輝くとともに巨大化し、掌から放つエネルギーで相手を握り潰す近接必殺攻撃《シャイニングフィンガー》。本話ではチャップマンの薬効切れによる隙を突いて発動し、ジョンブルガンダムの頭部を粉砕しましたtanpoko.blog.shinobi.jpgundam.wiki.cre.jp。ただしこの場面、通常なら雄叫びと共に炸裂するシャイニングフィンガーを、ドモンは迷いながら放っています。直前まで尊敬する英雄を相手に拳を叩き込むことに戸惑いがあったのでしょう。それでも最後は「これが俺の戦う目的だ!」とばかりに渾身の一撃を叩き込み、勝利をもぎ取りました。爆発の閃光の中、ガンダムの頭部がはじけ飛ぶ描写は本作でも屈指の衝撃的シーンです。ヒーローであるドモンの勝利でありながら、どこかやり切れない後味を残す演出となっています。
- チャップマンの苦悶とトリプルビジョン演出: 戦闘シーンの随所で、チャップマンの視界が乱れ三重にブレて見える**主観映像(トリプルビジョン)**のカットがあります。これは薬の効果切れによる彼の目眩や意識混濁を表現した映像効果ですja.wikipedia.org。観客に「チャップマンにはこう見えているのだ」と体感させる演出で、英雄の抱える肉体的苦痛を視覚的に伝えます。また、荒い呼吸音や心臓の鼓動音が強調される音響演出も相まって、チャップマンの極限状態が生々しく感じられます。やがて彼が膝をつきライフルを支えられなくなるシーンでは、背景音楽も静まり返り、月光の下で倒れ込む孤独な老兵の姿が悲壮感たっぷりに描かれました。この演出によって、単なる悪役ではないチャップマンの人間味と哀れさが際立ち、視聴者の心に深い印象を残します。
以上のように、第9話の戦闘演出はホラー的な不気味さとヒューマンドラマ的な哀感が入り交じり、非常に独特です。従来の明朗快活な格闘アクションとは一線を画す演出は、本作の多彩な魅力を示す一例と言えるでしょう。
名シーン・名セリフ
第9話「強敵!英雄チャップマンの挑戦」は、多くの視聴者の記憶に残る名シーンや名セリフが満載です。特に以下の場面は、本エピソードを語る上で欠かせません。
- ティーパーティーの静かな対峙: チャップマン邸での紅茶を巡るシーン。優雅に紅茶をたしなむチャップマン夫妻に対し、ソワソワと落ち着かないドモンの対比がコミカルでありつつ、キャラクター性をよく表しています。「せっかく招待してもらったんだから、楽しめばいいのに…」とレインに窘められても、「呑気に茶なんか飲んでられるかッ!」と憤るドモンtanpoko.blog.shinobi.jp。師匠である東方不敗との修行時代に、こんな風にお茶を楽しむ経験など無かったであろうドモンの不器用さが垣間見える名場面です。チャップマンも苦笑しつつ「戦いの前のひと時くらい穏やかに過ごしたまえ」と諭すように語りかけ、緊張感を和らげようとします。この一幕は戦闘前の束の間の静寂として印象深く、老練なチャンプと血気盛んな若手の対照を上手く描き出しています。
- 霧に浮かぶ亡霊ファイター: 戦闘シーン中盤、濃霧の中で次々に襲い来る無人MS群のシーン。暗がりに浮かび上がるカッシングのシルエット、背後から忍び寄る不気味な気配にドモンが動揺する様子など、まさにホラー映画さながらの演出です。レインが「これは無人のモビルスーツ…!」と真相に気付くと同時に、モニター越しに不気味なMSの群れが映り込む瞬間はゾクっとする迫力があります。死神のように無言で迫る敵に対し、ドモンが「一体何機いるんだ!?」と苦悶する姿からは、視聴者にも得体の知れない恐怖が伝わってきます。普段は熱血一直線のGガンダムにおいて、このような怪奇テイストのシーンは非常に珍しく、本エピソードの異色さを際立たせる名場面となりました。
- 「貴様が本当の戦士なら、撃て!」: チャップマンがドモンに放った魂の叫びとも言えるセリフです。霧の狩りによって追い詰めながらも、病の発作で動けなくなったチャップマン。止めを刺そうと迫るも急に苦しみ出した彼に、ドモンは攻撃の手を止めてしまいます。そんな甘さを見せたドモンに対し、チャップマンは己のプライドを振り絞って叱咤します。「さあ、貴様が本当の戦士なら、私を撃て!貴様にも戦う目的があるだろうが!さあ、撃て!!」tanpoko.blog.shinobi.jp――倒れてなお相手を奮い立たせるその姿は、まさに戦士の鑑でした。勝負の非情さを知り尽くした彼だからこそ出た名セリフであり、ドモンはこの言葉に喝を入れられる形で最後の一撃を繰り出します。結果的に自らの命運を決することになった言葉ですが、チャップマンの戦士としての意地と覚悟が込められた名シーンとして心に残ります。
- 「闘いとは非情なものだ。勝つ者がいれば必ず負ける者もいる」: こちらもチャップマンの口から語られた印象的なセリフですgundam.info。ドモンとの戦いの中で、彼はかつての栄光にしがみつく自分の弱さと、勝負の世界の厳しさを語ります。いくら実力が拮抗していようとも、勝負である以上最後には勝者と敗者に分かれる。そして負けてしまえばその地位も名誉も一瞬で色褪せてしまう…ファイターという存在の脆さについて、チャップマンはドモンに説くのですgundam.info。この言葉は、3連覇の英雄がなぜ手を汚してまで勝利に執着したのかを象徴するものでもあります。**「勝つ者が正義なのだ」**という非情な真理を体現するチャップマンの姿は、スポーツや勝負事に身を置く者の苦悩そのものと言えるでしょうgundam.info。彼の悲痛な叫びにも似たこの名言は、後のドモンにも深い影響を与えたように思います。
- 火星移住の約束: エンディング間際、息絶える寸前のチャップマンとマノンの会話シーン。激闘が終わり、燃え尽きた夫を抱き締めるマノンに対し、チャップマンは弱々しく呟きます。「火星に行く約束は果たせそうにないな…」と。実は二人は引退後に火星移住し静かに暮らそうと夢見ていたらしく、その約束が叶わないことを悔やむチャップマンの声は見る者の涙を誘いますdic.pixiv.net。マノンは「あなたと過ごせて私は幸せだったわ…」と語りかけ(台詞は想像ですが、彼女の表情からそう読み取れます)、最後は夫に感謝されながら看取りますdic.pixiv.net。この静かな別れの場面は、第9話のクライマックスにおける最大の泣き所でしょう。栄光に彩られた英雄の最期がこんなにも儚く哀しいものかと、当時多くの視聴者が胸を締め付けられました。
以上のシーン・セリフの数々が、第9話を名エピソードたらしめています。熱い戦闘だけでなく、人間ドラマとしても見応えがある点がファンに愛される所以でしょう。
裏話・制作トリビア
第9話およびチャップマンというキャラクターに関して、公に明かされている裏設定や制作上のトリビアをいくつか紹介します。公式設定資料やスタッフインタビューから垣間見える興味深い話が多数あります。
- 大会延期と射撃偏重時代: チャップマンの3連覇がもたらした影響として、第12回大会(前回大会)の延期がありますgundam-c.com。チャップマン無双の結果、各国がこぞって射撃武器に傾倒し軍備拡張競争が過熱。一歩間違えば戦争になりかねない事態となったため、大会主催者は4年間開催を延ばしたという裏設定ですdic.pixiv.net。チャップマンの存在がそれほどまでにガンダムファイトの在り方に一石を投じたことを示すエピソードであり、当時のコロニー連合政府も対応に苦慮した様子が伺えます。実際、第12回大会では各国が射撃型MFを投入しましたが、それを覆して優勝したのが東方不敗マスター・アジアでしたgundam-c.com。彼の活躍で大会は再び肉弾戦重視に戻り、第13回大会では射撃・格闘入り混じるバランスの取れた戦いが展開されたのです。
- チャップマンの第12回大会不参加説: チャップマンが第12回大会に出場したか否かについては、資料によって微妙に記述が異なります。年齢的には十分可能なはずですが、一部媒体では「第9~11回、13回大会に出場」とあり第12回について触れられていませんsrw.wiki.cre.jp。監督・今川泰宏氏のコメントによると、当初設定としてチャップマンは第12回大会を欠場していた可能性が高いようですdic.pixiv.netdic.pixiv.net。実は劇中に登場した**“バードマン”**というキャラクター(ネオイングランド/ネオスコットランドの元ファイター)が、若き日にチャップマンとマノンを巡って争ったライバルだったという裏設定がありましたdic.pixiv.netdic.pixiv.net。彼らは「4年に一度、ガンダムファイトで勝った方がマノンを得る」という男同士の約束を交わしていたのですが、第12回大会でチャップマンが出場しなかったためバードマンは落胆し、力を発揮できずに敗北・囚われの身となった…というエピソードですdic.pixiv.netdic.pixiv.net。このあたりの設定から推察すると、チャップマンは第12回に何らかの理由(体調悪化や3連覇後の燃え尽きなど)で参加しなかったと見てよさそうです。なお、バードマン自体はテレビ本編では脇役として登場するのみでしたが、コミックボンボン版漫画などでは補足的に描かれています。
- 漫画版(コミックボンボン版)での違い: 本エピソードのストーリーは、当時コミックボンボン誌で連載されていた漫画版(ときた洸一著『超級!機動武闘伝Gガンダム』)では簡略化されています。漫画版ではドモン対チャップマンのファイト(サバイバルイレブンでの戦い)は1コマのダイジェストで済まされ、本格的なチャップマンの登場は決勝リーグ編からとなっていますsrw.wiki.cre.jp。つまりテレビ第9話に相当する内容はほぼ省略され、チャップマンの復活後の姿のみが描かれた形です。そのため漫画版では、DG細胞で復活したチャップマンも普通に会話するシーンがあります(片言どころか生前同様の口調で喋っています)dic.pixiv.netdic.pixiv.net。ただし台詞自体はかなり少なく、人間性も薄れている描写ではあるようですsrw.wiki.cre.jpsrw.wiki.cre.jp。また漫画版では決勝大会での展開がアニメと異なり、例えばアニメであった東方不敗&ドモンVSデビルガンダム軍団のタッグマッチが、漫画版ではミケロ&チャップマン組との対戦に変更されている、といった差異も存在しますja.wikipedia.orgja.wikipedia.org。メディアによるストーリー展開の違いも、ファンには興味深いポイントでしょう。
- 監督・今川泰宏の演出意図: 今川監督はチャップマン復活後の描写について、興味深い演出意図を語っています。レーザーディスク収録のインタビューで監督は「チャップマンのように強烈に強い人間が甦った時、喋るより喋らない方が強く恐く見えると思った」と述べていますja.wikipedia.org。物語上「なぜ生き返ったんだ?」という疑問から始まる展開なので、徹底的に彼には喋らせないようにしたとのことですja.wikipedia.org。結果、DG細胞で蘇ったチャップマンは生ける屍さながらに呻き声程度しか発さない存在となりました(まさに“本物の機械になってしまった”と監督自身語っていますja.wikipedia.org)。今川監督いわく「初代ターミネーターもあまり喋らないでしょう? 強ければ強いほど喋らせない方が演出的には正解だというのが僕にはありますね」とのことでja.wikipedia.org、沈黙する怪物と化したチャップマン像はこうした演出哲学に基づいて生まれたようです。結果として彼の復活後の不気味さは倍増し、視聴者に強烈な印象を与えることに成功しました。
- その他豆知識: チャップマンの声優は中多和宏(旧名:中田和宏)氏が務めました。渋い低音ボイスで紳士的な台詞から苦悶の叫びまで演じ分け、第9話のドラマを支えています。またジョンブルガンダムのモデルナンバーはGF13-003NELですが、この番号から「ネオイングランドは前大会(第12回)で3位だった」という設定が読み取れるという考察がありますdic.pixiv.net(真偽は諸説あります)。なお、劇場版などは存在しませんが、後日談としては12年後を描いた小説『機動武闘伝Gガンダム 外伝 三峡新記(※未邦訳?)』にて、決勝大会で死亡したチャップマンやミケロが実は生存していた…というエピソードも登場しますdic.pixiv.net。ファン向けの裏設定として覚えておくと面白いでしょう。
解説・考察
第9話は単発エピソードでありながら、物語全体に関わる興味深い考察ポイントが数多く存在します。ここでは特に、ジェントル・チャップマンという人物とガンダムファイトの歴史的背景、そして彼の機体コンセプトの変遷について掘り下げます。他のキャラクターとの対比も交えつつ、考察を展開してみましょう。
● チャップマン全盛期とマスター・アジアの関係: 未来世紀におけるガンダムファイト史を見ると、チャップマンの3連覇(第9~11回大会制覇)は極めて突出した記録ですdic.pixiv.netsrw.wiki.cre.jp。その後、4年延期を挟んで第12回大会では東方不敗ことマスター・アジアが優勝し、新たな伝説を築きましたgundam-c.com。興味深いのは、この第12回大会にチャップマンが参加していない可能性が高い点ですsrw.wiki.cre.jp。もしチャップマンが出場していたら、当時無敵を誇った彼とマスター・アジアが激突していたかもしれません。しかし実際にはチャップマン不在の中でマスター・アジアが覇権を握り、結果として格闘主体の流派東方不敗が時代を制したわけです。この流れから推察すると、チャップマンは3連覇後に一度身を引いたものの、「英雄」としての自分を終わらせることができず第13回大会でカムバックしたとも見て取れます。劇中チャップマン自身が「私は常に英雄でなければならない」と語っていたのはdic.pixiv.net、マスター・アジアという新たな英雄の登場に触発された部分もあったのではないでしょうか。つまり、チャップマンの復帰には「無敵の東方不敗」に対する挑戦心や、かつての王者としての意地もあったのではと考えられます。結果的には病魔に勝てず無念の敗退を喫しましたが、もし万全の状態でマスター・アジアと戦っていたら…と夢想するファンも多いことでしょう。今川監督は「マスターのおかげでGガンは成功した」と述べるほどマスター・アジアというキャラを高く評価していますがdaisanhinanjo.nobody.jp、その輝きを更に高める意味でも“かつての王者チャップマン”の存在は重要な対比軸になっていたと思われます。
● ヒーローの栄光と転落: チャップマンの物語は、ヒーローの栄光と転落という古典的テーマを描いています。全盛期には正々堂々と戦い、人々にも尊敬された英雄が、歳月と共に肉体が衰え、周囲からの過剰な期待に押し潰され、ついには**「勝つためには手段を選ばない」という真逆の姿に堕ちてしまう。gundam.infoチャップマンが犯したドーピングや不正行為は決して擁護できませんが、一方で彼の置かれた立場には同情の余地があります。戦い続けなければ英雄ではいられないという強迫観念、負ければ全てを失うという恐怖gundam.info――それらは現実のスポーツ選手やチャンピオンが抱えるプレッシャーにも通じるものです。1994年当時を振り返れば、スポーツ界でも「〇〇三連覇」「無敗神話」などが持て囃される一方で、ドーピング問題が国際的にクローズアップされ始めた時期でした。チャップマンの描写には、そうした勝利至上主義への警鐘**も込められていたのではないかと考えられます。実際、ドモンはチャップマン夫妻の姿に自分達の未来を重ねて震撼しましたがja.wikipedia.org、それは単に「不正は良くない」という教訓だけでなく「勝利に執着し過ぎると人は大切なもの(誇りや愛)まで失いかねない」という深いテーマを伝えていたように思います。ヒーローであるドモン自身も、後の戦いで勝利と仲間・愛する人との狭間で葛藤する場面が出てきます。その意味で、チャップマンの悲劇はドモンへの重要な示唆となり物語全体に影響を与えているのです。
● モビルファイターのコンセプト変化とDG細胞: 本エピソードを境に、チャップマンの搭乗機はジョンブルガンダムからグランドガンダムへと劇的な変化を遂げました。そのコンセプトの変遷についても考察してみます。ジョンブルガンダムは上述の通り「射撃型」でありつつ「紳士の国イギリス」を体現する優雅で伝統的な意匠が特徴でした。射撃戦を重んじるチャップマンの美学とプライドが反映された機体と言えますgundam.wiki.cre.jp。一方、DG細胞で変貌したグランドガンダムは「パワー&防御」に極振りした超重量級の怪物マシンですg-gundam.net。そこにはもはや騎士道や品格といった要素は微塵も感じられず、ただ破壊と殺戮の本能のみが具現化したかのような無骨な機体コンセプトが見て取れますdic.pixiv.netdic.pixiv.net。この変化は、デビルガンダム細胞がもたらす狂気と力の象徴でしょう。デビルガンダムに取り込まれた者は人格を破壊され「生ける屍」と化すわけですがsrw.wiki.cre.jpsrw.wiki.cre.jp、モビルファイターも同様にその国やファイターのカラーを失い、“悪魔の手先”というべき殺人工具に堕ちてしまうのです。実際、チャップマンのみならず第1話でドモンに敗れたネオイタリア代表ミケロ・チャリオットも、後にDG細胞に侵され**「ガンダムヘブンズソード」へと機体が怪物化しています(元のネロスガンダムからの変異)gundam.wiki.cre.jpgundam.wiki.cre.jp。ネロスガンダムが俊敏な格闘戦型だったのに対し、ヘブンズソードは巨大な翼と鎌を持つ空中戦特化の怪異な姿へと変貌しました。これもミケロの卑劣さが増幅し「空からの死神」のごとき形となったとも解釈でき、チャップマンの事例と対をなすものです。ジョンブルガンダム→グランドガンダム、ネロスガンダム→ヘブンズソードという両者の変遷は、デビルガンダム細胞がもたらす「機体コンセプトの破壊と再構築」の好例と言えるでしょう。元来の設計思想やファイターの技量を無視し、極端な性能特化型へと強引に進化させる様は、科学の暴走や兵器の怪物性を象徴しているようにも思えます。それゆえに、チャップマンとミケロというかつての強敵が「四天王」として復活した時、その戦いぶりは往年とは似ても似つかない荒々しいラフファイトになっていたわけですsrw.wiki.cre.jpsrw.wiki.cre.jp。このギャップは視聴者に強い違和感と恐怖を与えましたが、それこそ制作側の狙いでもありました(前述の監督インタビューの通りですja.wikipedia.org)。まとめると、チャップマン編は「人間性と機体コンセプトの崩壊」**というテーマが底流にあり、彼の悲劇はデビルガンダム編の不穏な伏線として機能していたのです。
● シャッフル同盟との因縁: チャップマン自身はシャッフル同盟の紋章を持つ人物ではありませんでしたが、彼の存在は新生シャッフル同盟(ドモンたち5人)にとって大きな試練となりました。ジョルジュ・ド・サンドは憧れの英雄の醜態を見るという精神的打撃を受けましたし、チボデー・クロケットも決勝大会でチャップマン(グランドガンダム)に命を脅かされる極限の戦いを経験しましたdic.pixiv.net。結果的にジョルジュ&チボデーのコンビが命懸けの策でグランドガンダムを倒すのですがdic.pixiv.netsrw.wiki.cre.jp、これは新シャッフル同盟が過去の亡霊(旧世代の英雄達)を乗り越える象徴的なイベントでもありました。実はデビルガンダム四天王に復活した面々(チャップマン、ミケロ他)は、広義では「前時代の象徴」であり、新しい時代を担うドモン達への試練でもあったのですja.wikipedia.org。旧シャッフル同盟の亡霊達が新世代を試すエピソードもありましたが、チャップマン達四天王もまた新世代が越えるべき壁として機能していました。そう考えると、第9話でドモンがチャップマンから受け取った教訓や想いは、後の自分達世代が乗り越えるべき「宿題」だったとも言えるでしょう。最終的にドモンはデビルガンダムを倒し新たなガンダムファイトの伝説を作りますが、その道中でチャップマンのような先人の栄光と影を知ったことは、決して無駄ではなかったはずです。
総じて、第9話は単なる敵撃破の回に留まらず、作品全体のテーマとも絡む重厚なエピソードでした。ガンダムファイトの光と闇、人間ドラマとロボットバトルの融合といったGガンダムならではの要素が凝縮されており、視聴後に様々な解釈や思索を誘ってくれる回と言えます。
筆者コメント(あとがき)
第9話「強敵!英雄チャップマンの挑戦」は、子供の頃に初めて見た時と大人になって見返した時とで印象が大きく変わったエピソードの一つです。当時は「なんて卑怯な敵だ!」とチャップマンを悪役として憎々しく思ったものですが、歳月を経て改めて見ると、彼の抱える苦悩や妻との絆に胸が締め付けられるような切なさを感じました。かつてのヒーローが勝利に縋るあまり自身を貶めてしまう悲劇は、ヒーローもの作品として異色でありながら非常に人間臭く、Gガンダムの懐の深さを実感します。
また演出的にも、本作らしからぬダークさが光る回でした。霧の中の戦いやホラータッチの描写は、他の明朗快活なバトル回とは一線を画し、とても新鮮です。監督の今川氏はよく「勧善懲悪の図式にしないドラマ作り」をされますが、チャップマン編もまさに一筋縄ではいかない人間ドラマを作り上げています。単なる勧善懲悪であればドモンが悪を討ってスカッと終わるところ、本話では勝ったドモンですら何とも言えない苦味を噛み締める結果となりました。こうした後味の残る展開が物語に深みを与えていて、大人になって再視聴するとより一層味わい深いです。
余談ですが、第9話放送当時の視聴者の間では「チャップマン復活」に相当驚かされた方も多かったようです。私自身リアルタイムで見ていた頃は、まさかあのチャップマンがゾンビのようになって再登場するとは思いもよりませんでした。後々振り返ると伏線らしきものも無く唐突だったため、「ミケロもそうだけど、チャップマンの復活を予想できた人っているんだろうか?」なんて当時話題になったものですtanpoko.blog.shinobi.jp。しかしその不意打ちの展開こそ、視聴者にデビルガンダム編の不気味さと絶望感を叩きつける狙いだったのでしょう。結果的にランタオ島での決戦は今でも語り草になる名勝負になりましたし、チャップマンが物語にもたらしたインパクトは計り知れません。
ガンダムシリーズ全般を見ると、Gガンダムは異色の作品かもしれません。しかし、こうして一話一話を振り返ると、人間ドラマの濃さや演出の巧みさなど、随所に光るものがあると感じます。チャップマン編はその典型例で、改めて「熱血だけじゃないGガン」の魅力を教えてくれました。当時を懐かしみつつ、現在の目線でも十分に楽しめる傑作エピソードだと思います。
最後に、チャップマンとマノンの物語には今でも心を打たれます。ドモンとレインという若いカップルの将来像として、彼らの在り方が一つの警鐘にもなっているのが巧妙ですよね。「未来の自分達になり得る存在」として、ドモンとレインは二人の姿をどう受け止めたのか…考えるほどに想像が膨らみます。ガンダムファイトという派手な舞台裏で、静かに散っていった一組の夫婦のドラマ。この深みこそ、Gガンダムが色褪せない理由なのかもしれません。
次回予告
次回、第10話「恐怖!亡霊ファイター出現」! デビルガンダムと兄・キョウジを追い旅を続けるドモンとレインが辿り着いたネオエジプトで、ついに謎の手掛かりを入手?ピラミッドに眠る亡霊ファイターが今、甦る…!?不気味なミイラ男との対決に震えるサイ・サイシー。祖父の因縁を胸に、ドラゴンガンダムが熱砂の墓所で舞う!果たして亡霊の正体とは?そしてデビルガンダムとの関係は?次回もお楽しみに!ドモン、燃え上がれ!!
コメント